大坪実佳子
11月の七五三シーズンに向けて、女児の髪を彩る「江戸つまみ簪(かんざし)」作りが最盛期を迎えている。千葉県市川市にある穂積実さん(86)の工房を訪ねると、赤やピンクの色鮮やかな簪が数千個並んでいた。
穂積さんは職人歴70年。首都圏に20人ほどしかいない職人の中で最古参だ。
机に向かい、黙々と2、3センチ四方の布をピンセットで折りたたんでいく。何度か折って花びらにするのにほんの10秒。均一な花びらが次々と生み出される。
糊をつけた後、萼(がく)にあたる台紙につけて一輪の花を形作る。全体のバランスを確認しながら、素早く極天糸(ごくてんいと)と呼ばれる細い糸で数個の花を束ねる。仕上げに、紐(ひも)に花びらと鈴が連なった「藤下がり」を付けると、静寂な工房にチリン、チリンと愛らしい鈴の音が響いた。大小二つの簪が入る七五三セットは、1年間に少なくとも約1万セットは作るという。
「江戸つまみ簪」は江戸時代に上方で生まれて江戸に伝わったとされ、参勤交代で地方に戻るときの土産にもなったと言われる。主に七五三や成人式などで使われ、東京都の伝統工芸品にも指定されている。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル